生物多様性を学ぼう

信州の生物多様性生物多様性の特色

地形・地質がおよぼす生物多様性への影響

長野県には山岳や渓谷、河川、湖沼、盆地などの多様な環境があります。

多様な生息環境があると、それだけ多様な生物が生息することができます。
多様な植物や、多様な動物が存続するためには、多様な生息地の環境がバランスよく保たれる必要があります。
長野県の多様な生き物の存在には、大きな標高差をもつ複雑な地形と多種多様な地質の分布が影響しています。

高山植物のように特徴的な分布を示す種の存在には、石灰岩や超塩基性岩のような特異な化学組成の地質の存在や、火山活動や氷期・間氷期に伴う海水準変動の繰り返しなどの長い地質時代にわたる激しい地史的な変化や出来事が背景となっている可能性が高いと考えられています。

また、険しい山岳やなだらかな高原が渓谷や盆地によって分断され、それらが県内各地にモザイク状に分布するという地形的特徴もあります。過去に生き物が気候変動などの大きな環境変化を受けた場合に、この地形的特徴が新たな生息・生育適地を近くに提供し、種の絶滅を防ぐ役割を果たしたと考えられています。

気候がおよぼす生物多様性への影響

植物の分布は気候の影響を強く受けます。なかでも、温度や積雪深は植物の生育にとって重要です。標高が高くなるほど気温が低くなり、それに応じて生育する植物の種類が変わります。

また積雪の多い地域では雪の重みに耐えられるような植物がよくみられます。

南北に長く、山岳域を多く有する長野県では、海からの距離などの地理的な位置や標高が温度や積雪深の分布に影響し、それが地域ごとに特徴的な多様な植物に深く関わっています。

日本海側では雪が多く、トガクシソウやシラネアオイなど、世界でも日本海側の地域だけに分布する植物が見られ、植生でも日本海側型ブナ林と呼ばれるほぼブナの純林が見られます。

一方、内陸では乾燥や少雪な気候を反映して、ブナが少なくなりミズナラなどの他の広葉樹林へ置き換わります。

ミズナラ

さまざまな生態系

長野県は多様な生態系を有しています。

森林

長野県では森林が県土の約8割を占め、そのうち約5割が天然林(ブナやシラビソなどの原生林、コナラ、シラカシなどの二次林)、約4割が人工林(カラマツなど)となっています。

亜高山帯の自然植生(仙丈ヶ岳/伊那市)
シラビソ・オオシラビソを主体とする常緑針葉樹林
暖温帯の自然植生(天竜川/天龍村)
天竜川沿いの県南端部にみられるカシ林
冷温帯の夏緑樹林(落葉広葉樹林)(鍋倉山/飯山市)雪解けとともに展葉するブナ
(YouTube動画)飯山市 鍋倉山 標高約1100メートルのブナ林の雪解けの様子(2018年5月9日~21日)

森林は鳥類や哺乳類などさまざまな動物の棲み場として利用されていますが、近年、人工林や二次林の利用休止や管理放棄によって自然遷移が進行しています。その結果、森林内が暗くなり、カタクリやタデスミレなどの明るい森林環境を好む種が減少しています。

草原

長野県では、森林以外の生態系として草原生態系がみられます。自然条件下で森林が形成されない自然草原は、高山帯や湿原にみられます。

高山帯(標高約2500m~)の高山風衝草原(白馬岳/白馬村・富山県朝日町)
高層湿原(八島ヶ原湿原/諏訪市・下諏訪町)

こうした自然草原のほかに、採草や火入れなど人間活動によってできた半自然草原があります。
霧ヶ峰、美ヶ原、菅平などが代表的です。

野焼き
野焼きと草刈りで再生された半自然草原(開田高原/木曽町)
柵でシカの食害から守られた半自然草原(車山/茅野市)

半自然草原はかつて放牧地や採草地などとして利用されてきましたが、1960年前後からの利用減少により、長野県の面積の1%以下にまで縮小しています。
このため、アツモリソウやオオルリシジミ、オオジシギ、コヨシキリなど、草原に依存している動植物では絶滅の危機に瀕しているものが少なくありません。

里山

かつて里山の自然は、薪や肥料の採取などを通じて私たち人間の生活に密接に関わっていましたが、生活の変化によって里山の生物資源の利用が減ってしまい、里山環境は急激に変化しています。
長野県の植物のなかで絶滅危惧種の約5割が里山環境に生育する種で、さらに絶滅種の約7割が里山環境に生育していたとのデータもあります。

里山は伝統知の宝庫でもあります。豊かな自然は、人々の多様な食文化や信仰生活を支えてきました。

河川・湖沼

長野県内の河川は千曲川をはじめ広く長い流域を持ち、さらに、諏訪湖や野尻湖など天然の湖沼や人工湖、ため池など大小さまざまな湖沼が存在しています。

北アルプスに源を発する渓流
礫(れき)河原が広がる千曲川中流
水草が戻ってきた野尻湖

しかし、水質汚濁や河川改修、ダム建設などによる生息域の分断、外来種の増加などによって、河川・湖沼やその周辺に生息・生育する生き物に変化が生じています。

動植物

長野県には多様な動植物が生存しています。

植物

長野県では維管束植物(被子植物、裸子植物、シダ植物)が4,548種類確認されています。ヒメウスユキソウ(別名コマウスユキソウ)やヤツガタケキンポウゲなど、世界中で長野県にのみ生育している固有種もあります。

ヒメウスユキソウ(コマウスユキソウ)

哺乳類

哺乳類は長野県内で50種が確認されています。日本固有種のアズミトガリネズミやミズラモグラなどは、県内を中心とする本州の山岳地のみに生息しています。
コウモリ類では、日本にいる33種のうち15種が県内で確認されています。とくにクビワコウモリは全国でも乗鞍高原でのみ繁殖集団が確認されています。

カヤネズミ
ツキノワグマ
ニホンザル

鳥類

鳥類では330種が長野県内で確認されています。日本列島周辺にのみ生息する固有種では5種(ヤマドリ、キジ、アオゲラ、リュウキュウサンショウクイ、カヤクグリ)が生息しています。
また、繁殖地がほとんど日本だけとされる鳥のうち、オオジシギ、ミゾゴイ、コマドリ、ノジコ、コムクドリが長野県で繁殖しています。
ライチョウは北半球北部に広く分布しますが、その中で本州中部山岳の高山帯に生息する日本のライチョウは世界最南端に生息する集団です。

ライチョウは近年、南アルプス北部など一部の山岳で個体数の減少が著しく、2018年に成鳥雌1羽が確認された中央アルプスでの野生復帰事業など保護対策が精力的に行われています。また、長野県では過去には普通に見られたアカモズが野辺山高原では消失し、近年生息確認された中南信の農耕地でも減少が激しく絶滅が危惧されています。一方で、これまでは冬鳥であったジョウビタキが八ヶ岳山麓や乗鞍高原などで定着繁殖が確認され、東北信の渓流ではシノリガモの繁殖が確認されています。

魚類

魚類では約40種(亜種を含む)が長野県内で確認されています。一般に湖沼や河川の中下流域ではウグイやギンブナなどのコイ科の魚類が、上流域ではヤマメ(アマゴ)やイワナなどのサケ科の魚類が多く生息しています。

イワナ

昆虫類

長野県には暖かい場所を好む種と寒い場所を好む種の両方が生息できる環境があり、全国のなかでも多くの昆虫類を確認することができます。
チョウ類は県内で148種が確認されており、亜高山帯から高山帯に棲むミヤマモンキチョウやタカネヒカゲ、草原に生息するオオルリシジミやゴマシジミ、落葉広葉樹林の林床に生息するギフチョウやヒメギフチョウなど、バラエティ豊かな環境にさまざまな種が生息しています。

ゴマシジミ